
くるみ歯科こども歯科クリニック
院長 竹中 純子
政府が掲げる「国民皆歯科健診」の導入がいよいよ2025年を目標に具体的な検討が進められています。これは、国民全体の歯の健康増進、健康寿命の延伸、そして医療費の削減などを目的とした、国の新たな政策です。
今回は、「国民皆歯科健診」がどのような背景で導入されようとしているのか、そして、この制度が始まることで、なぜ歯の定期健診がこれまで以上に重要になるのかを詳しく解説していきます。
特に、お子様の歯の健康は、将来の全身の健康にも深く関わってくるため、「子どもこそ健診に行くべき理由」について、しっかりと理解を深めていただければと思います。
当院には、お子様の気持ちに寄り添い、優しく丁寧な診療を心がける女性歯科医師が7名在籍しており、私自身も子を持つ母親として、皆様の疑問や不安に親身にお答えしたいと考えています。離乳食教室も開催し、小さなお子様のいるご家庭のサポートにも力を入れていますので、どうぞ安心して読み進めてください。
1.「国民皆歯科健診」とは?導入の背景と目的

現在、日本では「国民皆保険」制度により、誰もが比較的安価に医療を受けることができます。しかし、「国民皆歯科健診」は、これと同様に、国が主体となってすべての国民に対して歯科健診を行うことを目指すものです。
現在、法律で歯科健診が義務付けられているのは、乳幼児期(1歳半、3歳)、学齢期(小中高校生)、そして特定の有害物質を取り扱う労働者の方々に対する定期健診に限られています。しかし、大学生や社会人など、より幅広い年代への歯科健診の義務化は、早期に口腔内の疾患や問題点を発見し、受診者の健康寿命を延ばすだけでなく、将来的には国の医療費削減にも繋がる可能性があります。
生涯にわたり、楽しく充実した食生活を送るためには、すべてのライフステージで健康な歯を保つことが不可欠です。今後の政府や厚生労働省の動向に注目していきましょう。
2.世界に比べて低い日本の歯科健診率

日本は、世界的に見ても歯科の定期健診の受診率が低いことで知られています。多くの方が、「歯が痛い」「歯ぐきが腫れた」といった自覚症状が出てから歯科医院を受診する傾向にあります。「特に気になるところはないけれど、虫歯がないかチェックしてほしい」という予防目的での定期健診受診者は、残念ながらまだ多くありません。
歯科予防の先進国であるスウェーデンでは、歯科定期健診の受診率が80%を超えるのに対し、日本の受診率は50%程度に留まっています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」のデータを見ても、過去1年間に歯科健診を受けた人の割合は年々増加傾向にあるものの、令和5年(2023年)のデータでは58.8%と、決して高いとは言えません。
3.定期健診を怠ると、歯の寿命が短くなるという事実

8020推進財団の調査データによると、定期的に歯科健診を受けている人と、歯に痛みを感じたときだけ歯科医院を訪れる人とでは、10年あたりの歯の喪失数に大きな差が出ることが分かっています。特に40歳以上の年齢層では、その差は4倍にも及び、年齢が上がるにつれて失われる歯の数が増加する傾向にあります。
近年、歯科医療は「治療の時代」から「予防の時代」へと大きくシフトしています。子どもの虫歯発症率が年々減少していることからも、「予防」の大切さが改めて認識されています。
歯科における予防の重要な柱は、「毎日の丁寧な歯磨き」(セルフケア)と「歯科医院における定期的な健診と 専門的な口腔ケア(プロフェッショナルケア)の二つです。
毎日の歯磨きは非常に重要ですが、完璧な歯磨きで100%の磨き残しを防ぐことは不可能です。磨き残しは、虫歯や歯周病の原因となるため、定期健診の際に歯科医院の専門的な機器や器具を用いて、歯垢(プラーク)や歯石を徹底的に除去することが不可欠なのです。
4.成長期の子どもこそ、定期的な歯科健診が不可欠な理由

定期的に歯科医院で口腔内のチェックやクリーニングを行うことは、大人にとっても虫歯や歯周病の早期発見、義歯のチェックなど多くのメリットがありますが、成長期にある子どもにとっては、口の中の変化が著しいため、さらに重要な意味を持ちます。
- 1. 子どもの口の中は変化が著しい
- お子様の口の中は、最初の乳歯が生え始める生後半年頃から、永久歯が生え揃い、親知らずが生え始める20歳頃まで、歯の萌出、生え変わり、そして乳歯の脱落といった劇的な変化を繰り返します。定期的な健診によって、歯並びや噛み合わせの異常を早期に発見し、適切な対応をとることが可能になります。
- 2. 乳歯は虫歯になりやすく、進行も早い
- 乳歯は、永久歯に比べて表面のエナメル質が薄く、石灰化の度合いも低いため、非常に虫歯になりやすい性質を持っています。また、虫歯の進行も早く、気づいたときには神経まで達していることも少なくありません。さらに、歯の生え変わりの時期には、歯がグラつくことで歯磨きが困難になることもあります。早期発見・早期対応が虫歯治療の基本ですので、定期健診は不可欠です。
- 3. 歯は体の成長・発育に大きく関与する
- しっかりと噛んで食べることは、健全な成長・発育を促す上で非常に重要です。また、子どもの頃の歯の健康は、将来の健康な歯の土台となります。2018年に報告された8020推進財団の調査では、歯を失う原因の6割以上が歯周病と虫歯であるとされています。定期健診では、歯だけでなく歯ぐきの状態もしっかりとチェックしてもらいましょう。
- 4. 歯は言葉の発達にも影響を与える
- 言葉は、コミュニケーションをとる上で非常に重要なツールであり、特に幼少期は言葉の発達が著しい時期です。歯は、発音(構音)に深く関わっており、特に前歯は言葉の滑舌に大きな影響を与えます。定期健診で虫歯や歯並び、噛み合わせの状態を確認してもらい、構音に問題がないかをチェックしてもらいましょう。
- 5. 治療期間と医療費の節約になる
- 歯や歯ぐきに痛みがあると、お子様は授業に集中できず、ひどい場合には治療のために学校を休んだり、遅刻や早退をしたりする必要が出てくる可能性があります。虫歯治療は、その程度によって通院回数や治療費が大きく異なります。痛みのない小さな虫歯であれば1回の治療で済むこともありますが、神経にまで達した虫歯の治療には複数回の通院が必要です。自治体によって医療費助成制度は異なりますが、治療回数は少ないに越したことはありません。
- 6. 子どもが歯医者に慣れる良い機会になる
- 歯医者に対して「怖い」「痛い」といった マイナスのイメージを抱きがちなお子様にとって、定期健診を受ける家族と一緒に歯科医院に通うことは、「怖くない場所」という認識を育む良い機会になります。また、健診で正しいブラッシング方法や食生活の指導を受けることで、お子様自身が口の健康に関心を持ち、正しいセルフケアを習慣化するきっかけにもなります。
5.歯科定期健診の内容と適切な間隔

子どもの歯科健診では、虫歯や歯の生え変わりなど、成長に伴うトラブルのチェックのほか、 フッ素塗布、歯磨きや食生活の指導などが行われます。奥歯の溝が深い場合には、虫歯予防としてシーラント処置を行うこともあります。
日本歯科医師会は、少なくとも年に2回の歯科健診を推奨していますが、特にお子様の場合は口の中の変化が大きいため、3~4ヶ月に一度の頻度で定期健診を受けることが望ましいと言えるでしょう。
また、定期健診のたびに歯科医院を変えるのではなく、できるだけかかりつけの歯科医院を見つけ、過去の健診結果と比較しながら、現在の状態を継続的に診てもらうことが大切です。
毎年6月には「歯と口の健康週間」があり、歯磨きや口腔管理の大切さについて様々な啓発活動が行われますが、この時期だけでなく、年間を通して定期的に歯科健診を受けるように心がけてください。
- 院長:竹中 純子
- 住所:〒480-1135 愛知県長久手市下山3-1
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